今年度においては、昨年度に引き続き、フランスの言語実験の作家のうち何人かについて資料収集、読解、分析を試みた。具体的に取り組んだのは、レーモン・ルーセル、ゲラシム・ルカ、ジョルジュ・ペレソクであった。ルーセルとゲラシム・ルカについては、せりか書房から『ドゥルーズと文学』(仮題)という共同著書を出版する企画があり、そこに参加させていただく形で、私もその中で、主にフランスの哲学者ドゥルーズとのかかわりを中心に、ルーセルとゲラシム・ルカに関する原稿をそれぞれ一本ずつ執筆した(11月末に送稿)。ただし残念ながら、この本の出版がいつになるかは、まだ見通しが立っていない。ほかに、雑誌『思想』(岩波書店)のシュルレアリスム特集号に掲載するためアンドレ・ブルトンらに関するフランス人研究者による論文を翻訳したが(7月末送稿)、この特集号も現在延期中である。ペレックについては、昨年に引き続き遺作『53日』の翻訳作業を行っている(インポート社より刊行予定)。また、9月2日-7日にパリ出張を行い、若きペレック研究者でペレック協会事務局長でもあるソルボンヌ大学のレッジアーニ氏と面会し、その協力を得てパリ・アルスナル図書館での資料調査を(3、4、5の三日間)行った。ルーセル、ルカ、ペレックいずれもに共通するのは、「書く私」もしくは自伝の問題である。なぜ言語の問題は「私」もしくは「自伝」の問題になるのか、そのことを頭に置きつつ、言語遊戯を言語表現全体の問題として問い詰めること、という本研究の課題が、この一年を通してより浮き彫りになってきたと言える。
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