昨年度に引き続き、レーモン・ルーセル、ゲラシム・ルカ、ジョルジュ・ペレックを中心に研究を進めた。本研究は今年度で最後となるため、新たな資料収集というよりもこれまでの成果をとりまとめることに中心をおいた。フランスへの研究出張も行わなかった。本研究の中心的な問いは、言語実験的な文学が、書くという行為の本質とどのようにかかわるのか、ということであった。 ルーセルとペレックに共通するのは、ともに言語実験に深い興味を持ちながら、同時に一人称によって「私」について書くという形式にもこだわった点であった。言語実験と自伝的な語り、一見正反対にも見えるこの二つがどうかかわるのか、を検討することには大きな意義があると考えている ルーセルとゲラシム・ルカについては哲学者ジル・ドゥルーズとの関係を論じた短い論考を執筆した。この2本の原稿はほかの多くの共著者の原稿とともに『ドゥルーズ千の文学』(せりか書房、2011年1月発行)として刊行された。ペレックについては、その遺作『53日』を現在翻訳中であり、これはインスクリプト社より刊行予定である。 また一方で、フランスの言語実験文学がどのように日本に移入されたかについても研究を進め、特に日本のモダニズム詩人・北園克衛の翻訳詩に焦点を当てた論文を大学の研究雑誌に発表した。
|