2009年度は、まず「暴力の記録と聖体拝領」および「聖体拝領とカンニバリスム」というテーマを中心に据えて資料を収集し、かつその分析に着手した。具体的には、フランス国立図書館(以下、B.N.)が公開している電子媒体(Gallicaなど)を通して、レリーやベルフォレたちの手になるパンフレ(誹謗中傷文書)を集め、宗教戦争とカンニバリスムという観点から分析を加えた。カトリックのミサ(聖体拝領)を非難していたプロテスタントが、たとえ飢餓からとはいえ、人肉食を強いられたことに対して、「信仰による義」の「欠落」ないしは「不足」という根拠を対置していることが見て取れた。さらに、春休み(3月15日~23日)を利用した資料収集では、改めてクレスパンの大著『殉教録』を直に手にとって読み、興味深い箇所を写し取ることができた。また、今回の最大の収穫は、プロテスタントがカトリックを強烈に諷刺した、巨大な版画付きの文献であるPierre ESCRICH、Jean-Baptiste TRENTOの、LA 《MAPPE-MONDE NOUVELLE PAPISTIQUE》に関する情報を多く得た点にある(ただし、版画そのものはB.N.には所蔵されておらず、間接的な資料に頼った。版画の原典はポーランドとイギリスの図書館が所蔵)。悪魔の巨大な口(地獄)の中には、ミサを偶像崇拝し、その他様々な悪徳に「塗れた」当時のローマが痛烈な諷刺の対象となっており、極めて重要な発見であった。なお、当初の予定通り、暴力と聖体拝領を巡る分析に必要な、民族学、歴史学、文化人類学、神学、宗教学関連の文献も、予算の範囲内で極力多く収集した。さらに、マルグリット・ド・ナヴァールの『エプタメロン』に於ける暴力、近親相姦、強姦などの「エロ・グロ・ナンセンス」と神学的概念との関わりについて、30ページほどの論文に纏めることができた。
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