研究課題
平成22年度は旅行記に於けるカンニバリスムと、聖体拝領の結節点を見出し、大いなる「他者」(新世界)に纏わる食人行為と、ある種の「神食行為」としての聖体拝領とを重ね合わせて、文化人類学的な視点から両者の結節点と乖離点を主として考察した。学務の関係でパリ国立図書館に出張し、一次資料を渉猟する余裕はなかったが、レリーやテヴェなど校訂版のある旅行記を資料体として、いわゆる「未開人」たちのカンニバリスムに見られる共同性が、キリスト教徒(特にカトリック)たちの聖体拝領に感知しうる集合的儀式性と類縁性を有すること、彼ら「未開人」たちの食人的行為が、敵への復讐心から成されるある種の「名誉あるカンニバリスム」であって、決して「栄養摂取」としての側面を孕まないこと、人肉の脂を好んで食する老婆たちの姿が、明らかにヨーロッパの魔女幻想を想起させること、などが明らかとなった。ただし、こうした「食人行為」と「聖体拝領」(およびそれを巡る論争)が、共同体性、栄誉ある神食性、唾棄すべき魔女性などと二重写しになるという議論は、バティストやリシェらその他の資料体に於ける図像的表象によって補完される必要がある。なお今年度は、ラブレーを中心とする前期ルネサンスの大作家たちの作品に見られる、パンとワインを巡る記述に於いて、その両者が聖なる言説空間ではキリストの暗示的表象と連続していき、俗なる空間では、財産としての飲食物として、暴力的にでも守るべき指示対象として描出される様子を、韓国で開かれた学会の際などに発表できた。また、『エプタメロン』に於ける聖的言説と暴力の関係についても、学会の招待講演で改めて分析を加えることができた。
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Etudes de langue et litterature francaise en Asie du Nord-Est pour le XXIeme siecle : Enjeux et perspectives
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