研究概要 |
本年度は、平成20年度中に執筆した仏語論文(Le 6 fevrier 1934 et les ecrivains(I):《Hors de la tour》)を大幅に修正して公にしたほか、2月6日事件を機としたジョルジュ・バタイユの政治的動向を明らかにすることを目的とした論文(「二,月六日事件とバタイユ」)を執筆・発表した。また現在は、2月6日事件の衝撃の下に執筆されたバタイユの『空の青』(1935)の序に関する論文(仏語)、同事件を機に政治活動に身を投じる人物たちを描いたアンドレ・シャンソンの小説『懲役船』(1938)を考察する論文(仏語)の執筆を進めている(いずれも、平成22年度内に発表予定)。 平成22年度に在外研究員としてパリで研究を進めることとなったため、本年度は当初予定していたフランスへの渡航を取りやめ、上記論考の執筆、ならびにドリュ・ラ・ロシェルのテクストの分析を進めた。第一次世界大戦中戦闘に参加し、戦闘のなかに生を肯定する契機を見出していたドリュにとって、2,月6日の「戦闘」は、他の作家たちがそこに認めた意味とは異なる意味をもつ。だがだからこそ、2月6日の騒擾が束の間の幸福でしかなかったと悟った際のドリュの落胆は大きく、それが戦闘を回復するための戦闘としての政治闘争へと彼を導いていったのである(とはいえ、それは飽くまで戦闘のための戦闘であって、それ自体としては価値がない。小説『ジル』(1939)の主人公が2月6日事件ののち、政治闘争よりもスペインでの戦闘を選択しているのは、この点で示唆的である)。こうした観点を裏づけするための資料(ドリュが寄稿していた難誌等)の収集・分析は、フランスに滞在する平成22年度の課題としたい。
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