研究概要 |
平成21年度は,共和国の学校における教育の問題に真正面から取り組んだダニエル・ペナックの作品『学校の悲しみ』の日本語版を上梓することができたが,この仕事の過程で,わたしは現代フランスを代表する哲学者・精神分析学者・エッセイストである,J.B.ポンタリス氏の知遇を得た.ポンタリス氏との出会いによって,共和国,言語,教育,ルソー,モーツァルトをテーマの一部とする書物の構想が浮かび上がり,これまでの研究成果のすべてを注ぎ込むかたちで,フランス語による書物を構想するにいたった.題して,Une langue venue d'ailleurs(異邦からやってきた言語:仮訳)(2011年1月,Gallimardより刊行)である.わたしは,この書物を自伝と小説と研究的エッセイの統合的ジャンルとして構想し,これまでのフランス啓蒙研究の成果,そしてその思想を支えているフランス語という言語を血肉化する経験,さらには,共和主義という政治文化に固有な伝統としての「ユマニテ(ヒューマニティーズ:人文主義的教養)」教育への関心のすべてを組織的にまとめあげることに専心した.幸いにも,フランス読書界の反応はきわめてよく,Le Mondeを初めとする主要メディアで大きくとりあげられた.フランスにおける共和主義という政治文化,文学,他者といった主題が,最終的に一冊のフランス語の書物として纏め上げられ,フランスの読者諸氏の関心を集めたことをすなおに喜びたい.
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