本研究は「西欧中世文化を捉え直し今日的意義を呈示する-フランス現代思想に基づきながら」の名のもとに平成20年度に開始された。西欧中世文化とその解読に寄与するフランス現代思想を大きな研究の基軸にしている。平成21年度は本研究の2年目にあたり、中世文化については平成21年9月にフランスおよびスイスにおいてロマネスク教会堂の実地踏査、さらに図書館における資料収集をおこない、その成果を論文「《ロマネスク》概念の誕生-ノルマンディー好古家協会と好奇心の美学」にまとめて法政大学言語文化センター紀要『言語と文化』第7号(平成22年1月刊行)に発表した。貴重な文献資料と図版資料、および私自身が撮影した写真を盛り込みながら、19世紀フランスにおいて中世の文化概念《ロマネスク》が誕生した経緯を詳述した。そのさい、フランス現代思想とくにバタイユの芸術論が論の展開の支えになった。本研究のもう一つの基軸であるフランス現代思想については、バタイユからフーコーへ思想の継承がなされた模様を、中世文化も包含する近代性批判という今日的な視点から検討した。その成果は、『社会思想史』(法政大学通信教育部発行)の第6章「フランス現代思想-バタイユからフーコーへ」にまとめた。またバタイユ研究としては、後期バタイユの論文を集めて翻訳した『純然たる幸福』(平成6年に人文書院より発行)を、厳密に訳文すべてを再検討したうえで、平成21年10月にちくま学芸文庫より再刊した。また論文としては同年6月に雑誌『大航海』に「ワイン一杯とバタイユの<無>のエコノミー」を発表した。さらに展覧会カタログ『岡本太郎と絵画』(川崎市岡本太郎美術館発行)に論文「根源の生へ一1930年の岡本太郎」を発表し、この日本の画家とバタイユの思想上の交流を明示した。科研費による海外渡航、研究書およびコンピュータの購入が、これらの研究の基底を形成している。補助金の給付に心より感謝したい。
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