フランス現代思想、とくにジョルジュ・バタイユ(1897-1962)とミシェル・フーコー(1926-1984)の思想に拠りながら、西欧中世文化の諸相を捉え直し、未開拓の面を抽出した。とりわけ、中世の神学思想、文学、図像表現の分野に注目し、それぞれの創造者と享受者において、語りえぬ情動が重要な役割を果たしていることを明らかにした。今日的な意義としては、文字になって顕在化している資料にのみ依拠して過去の文化を見る近代の実証主義的歴史研究に反省を迫るとともに、今日の我々の文化を捉える際にも、矛盾や変化のため文字表現になりえない人間の不分明な心情へ柔軟で辛抱強い眼差しを差し向けることが必要であることを示唆した。
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