キケローは政治家でありかつ裁判弁護人であった。この両面を一つこ結びつけた彼のプラクシスの根底にテオリアの探究者すなわち哲学者キケローがいた。本年度は政治哲学者キケローを五人の哲学者すなわちプラトン、ヴィーコ、ブルクハルト(この人物は歴史家であるが私の判断では立派な哲学者である)、アーレント、レオ・シュトラウスと関係づけて一著(『政治哲学へ向けて』)を書き、出版した。さらに裁判弁護にその全人的な教養と深遠な学知をとかし込んだキケローの側面を400字原稿用紙1670枚を入念な参考文献の読みと共にまとめ、700頁の大著として公刊できた。キケローの裁判活動を時代的に五期に分けて、計17篇の弁護弁説を注釈書と研究文献を沢山用いて、解釈した。そしていずれの事件もキケローの投ぜられたその時代の政治的状況とかたく結び合わさっていること、キケローは被告だけでなく自らの政治人生の過去と今を弁護したことを細やかに説得的に示し出した。
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