研究概要 |
2010年8月31日-9月18日、ダブリンのトリニティ・カレッジ内に宿泊滞在し、バークリ図書館所蔵のベケット・コレクションを調査研究する。1930年代初期のベケットの知識欲は、文学、哲学のジャンル、英独仏伊の言語、さらには古代ギリシア哲学、中世の神学、ルネサンス、近代思想など時空を超えた、広く多岐にわたるものであった。筆者はそのなかでもサミュエル・ベケットの「哲学ノート」(1932-34)の研究に時間をかけた。これはドイツの哲学者ヴィンデルバントの『一般哲学史』をベケットが267頁にもおよぶノートに要約し直したもので、このノートの研究を通してベケットが西洋哲学史を、とりわけライプニッツ形而上学についてどこまで知っていたかを特定することができた。現代ヨーロッパ文学における数学と形而上学の関係を学際的に考察するという本研究の目的を展開する上でも、今後の基盤となる調査となり、早速その成果を次の発表に盛り込むことができた。 同年11月14日に日本ライプニッツ協会第二回大会(学習院大学〉にて、「ベケット作品における微小表象」を発表。『マロウンは死ぬ』の一節を例に、ベケットがいかにライプニッツ形而上学(魂の不死性、死者の記憶、微小表象)を踏まえて文学作品を創造していたかを論じ。 2011年2月に執筆した"Beckett's Faint Cries : Leibniz's petites perceptionsin First Love and Malone Dies," in Samuel Beckett Today/Aujourd' hui,vol.24, "Early Modern Beckett,"(Amsterdam : Rodopi,2012年刊行予定)においても、これまで想像の範囲を超えなかったベケット作品におけるライプニッツ形而上学の応用という筆者の持論を、「哲学ノート」により実証的にも論証することができた。
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