本研究の5年間を通じての目的は、インド叙事詩『マハーバーラタ』を中心とするインド古典文学から、仏典等を通じて日本古典文学に流れ込んだ説話・神話を原典と比較することにより、日本の説話文学の思想的・文学的系譜、日本的変容や特徴を究明することであった。長期的目標・展望としては、特に欧米では歴史のある『マハーバーラタ』神話研究を、近年停滞している『古事記』『日本書紀』神話の比較神話学的研究に応用して、日本神話の普遍的性格と日本的特徴を明らかにしてゆくことをも考えている。 本研究を進めるために、その前提として『マハーバーラタ』神話・説話の個別研究が必須と考え、平成20年度はこれを研究の中心に置いてきた。平成20年度、学会においての口頭発表を経てのち、学会誌に投稿、査読の結果、論文「『マハーバーラタ』第13巻第102章の説話-「ガウタマ仙とインドラの対話」の考察」を発表。また、これと対応する基礎研究、「「ガウタマ仙とインドラの対話」 : 『マハーバーラタ』第13巻第102章の説話・和訳研究」を発表。さらに、ジャータカ仏教説話の日本文学の説話との比較の視点をあわせ持つ論文「パーリ語『ジャータカ』の動物活躍譚-現在物語・過去物語を往来する人類・異類の生存の交流」を執筆し、入稿を済ませている。また、平成21年3月には比較神話学研究準備の一環として、アイスランドを訪問し、北欧神話・叙事詩関係文献・伝承地の見学・調査を行なった。
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