本年度は、6月30日(土)~7月1日(日)、「日本印度学仏教学会 第63回学術大会」(於鶴見大学、横浜市)に出席した。主に第1部会において、インド学、インド文学に関わる研究発表を聴講、多くの刺激的な研究に学び、新しい知見を得ることができた。また、論文「チャヴァナ仙と魚たち:『マハーバーラタ』第13巻第50章と第51章・和訳研究」(『小樽商科大学人文研究』)を公刊した。 現在準備中であり、近い将来の研究発表・論文公刊を考えているのは、日本の『古事記』『日本書紀』に収められている「海幸・山幸神話」の『マハーバーラタ』神話研究からの応用研究である。『マハーバーラタ』の「善玉」主人公たち(パーンダヴァ)と「悪玉」たち(カウラヴァ)とは本来善悪の立場が逆であった、とされる。もともと「悪玉」側の伝承であった戦いの物語が、彼らが敗者になることによって、勝者の「善玉」主人公側に奪取され、その結果、善悪の立場が転倒し、正義・不正義のすり替えがなされ、結果として様々な不整合が生じている、という見方である。これとよく似た現象は日本の「海幸・山幸神話」にも起こっていることが推測される。本来「海幸」側(日向隼人族)の物語であったものが彼らの服属によって「山幸」側(大和朝廷)のものとなり・・・といったことである(このような現象はおそらく世界中の神話・説話・叙事詩にあるのであろう)。 本研究は『マハーバーラタ』そのものの神話・説話の研究と同時に並行して行なった。今後は『マハーバーラタ』そのものの神話・説話の研究(比較研究)を主体として行なう方向へと転じてゆく予定である。そうすることによって、より規模の大きな叙事詩『マハーバーラタ』の比較研究となってゆくことをめざしている。
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