1)周作人においては、「美」が、視覚的聴覚的な心地よさだけではなく、総合的かつ理知的な判断による快感を重要なものとして含むものであることを明らかにした。 2)周作人が、「苦味」に関わる「苦」という審美価値を精錬し育て上げていったユニークな過程を、詳細に跡付けた。 3)周作人の「頽廃派文人」への共感が、同病相憐れむ風の社会的無力者(弱者)に対する同情(彼の言う「現代人の悲哀」)に基づいていることを明らかにした。 4)ただし、周作人の「頽廃派文人」への共感は、芸術的表現形式や倫理的な社会行動には及んでいなかったことを明らかにした。 5)近現代中国においては、同じく唯美頽廃主義に影響を受けた文人でも、表現形式面において「頽廃派文人」同様の表現を望んぢ者を「官能重視派」、一方、真善美の三者のバランスを重視し、表現形式方面での「頽廃派文人」の表現の模倣を拒否した者を「情趣重視派」とする、二分法が有効であることを明らかにした。 6)周作人の美学、審美主義を引き継ぐ者として、朱光潜を想定したが、朱は、それを、より専門的、分析的に発展させようとした点で大きな断絶があるらしいことが判明した。 7)周作人の「生活の芸術」論とほぼ同時期に「美的人生観」を提唱した張競生ぶ、周作人の言論と関係を保ちつつ、またまったく違った審美主義を発展させていったことが、判明した。 8)李沢厚の美学や儒家美学観が、周作人のそれとの間に多くの類似点があることが判明した。
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