平成21年度の主たる研究実績は、以下の3点である。 (1)シーブーラパー関連資料については、タイ語月刊文芸誌『本の世界』(1974創刊~1982廃刊)、同『本の道』(1983創刊~1985廃刊)、同『Writer Magazine』(1986創刊~2006廃刊)のシーブーラパー関連評論のうち重要論攷を20点弱を翻訳し、作家としての業績とジャーナリストとしての業績、さらに実践的な政治活動家の3つの面があることが明らかとなった。(2)タイ作家協会事務局を兼ねる「シーブーラパーの館」で遺族から中国亡命時代の記録を収集し、現在も北京に滞在中のシーブーラパーの元同志との連絡がつき、22年度に北京で接見できることとなった。同時に当時の中国人関係者からもシーブーラパーの中国での位置づけについて調査する予定。(3)シーブーラパーの思想的転換に大きな影響を与えたプッタタート比丘との往復書簡を入手した。プッタタートは現代タイの知識人に非常に大きな影響を与えた僧侶で、上座仏教の狭い枠に閉じこもらず、大乗仏教や禅の思想をタイ仏教に導入した。特に比丘が提唱した「仏教社会主義」は、現在では「足を知る経済」という形で王室を中心に導入が計られている。シーブーラパーの人道主義思想には、西欧ヒューマニズムと並んで、この「仏教社会主義」の考えがあることを、プッタタート比丘との思想的交流の研究から明らかにすることができた。
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