平成23年度の主たる研究業績は、以下の通りである。 ・タイ内外における従来の研究は人道主義作家としてのシーブーラパーに焦点を当てたものが多く、邦訳あるいは欧米語訳された作品もすべてが小説であるが、ジャーナリストとして活動した面を照射した論考や評価はなかった。そこで23年度においては、彼が新聞・雑誌に掲載した政治・社会評論を精力的に収集し、翻訳と分析を進めた。その結果、戦前のピブンソンクラーム政権や戦後のサリット政権に対し批判的な立場をとったことが、政治的陰謀「平和反乱運動」での逮捕、投獄に繋がったことが論証できた。ただし、当時のコミンテルン国際運動や国内労働運動、第二次世界大戦中の反日「自由タイ」運動との関わりについてさらに一時資料を収集、分析していく必要がある。 ・さらに近代文学者としてのシーブーラパー研究では、最終年度を、彼が主導した同時代の若手作家集団「スパープ・ブルット」(紳士)関連の資料収集、分析に当てた。その結果、「スパープ・ブルット」の成立過程と活動、季刊『紳士』の現存バックナンバーのコピー、個々の同人のバイオグラフィ作成・業績一覧・作品の解題を進めることが出来た。その結果、雑誌『紳士』が1950年当時、タイでも最もモダンな文芸誌であるだけでなく、リベラルな主張を持った知性集団であることが明らかになった。このテーマで収集した資料は2000頁以上に及ぶので、今後とも引き続き翻訳読解と分析を進める必要がある。
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