本年度は、『日本詩話叢書』(全十冊)所収の詩話のうち、3冊まで、また津阪東陽『夜航詩話』の校勘及びデーター入力を行った。ただし、まだ公開には至っていない。この入力により、引用詩人・詩文の調査が容易になり、江戸期の詩話の興味や関心の方向、論争の実態が具体的に論証することが可能になりつつある。 南摩綱紀の「追遠日録」の訳注を行った。本作業では、特に言葉の註釈に意を用いた。その言葉(漢語)が、どのように中国古典文で、あるいは日本の漢詩文で用いられているかに注意し、単に典拠だけではなく、南摩に近い時期、即ち中国では清朝、日本では幕末から明治の漢詩人の作品にどのように用いられているかも調査し、指摘することに努めた。そのことにより、江戸時代の漢学者がどのような古典詩文を読み、どのようにそれらを理解していたか、さらにはそれらをどのように、自らの言葉として運用していたかという問題について、具体的な例を提供することができた。 前者は、本研究が目的とする、江戸期の中国古典文学研究の実態を解明するうえで、必須の資料であり、後者は、南摩綱紀という江戸期に中国古典文学を学んだ人間の具体的作品を取り上げ、その用語の分析を通して、その学習を復元することを意図したもので、ともに、本研究の趣旨を具現化したものである。
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