本年度は、昨年度に引き続き、津阪東陽『夜航詩話』の注訳文の作業を継続した。その作業の中で、『夜航詩話』に関わらず、日本の詩話の多くが、実際に中国古典詩文を作る上で、どのようなことに注意すればよいかという、実用目的・教育目的をもって作られたものが多いことを発見した。この研究成果は、2011年4月末、香港大学で開催される国際東方詩話学会で発表予定であり、既に論文を提出した。 この研究により、日本の詩話と中国における詩話に対する考え方、文学における位置付けの違いを明確にすることができた。このことは、日本における中国文学研究に対して新しい視座を提供することになると考えられる。 また、日本における中国文学受容史として、奈良末期から平安初期の中国文学受容の差異を検討しており、これにより、初期においては、文化システムの一つとして、詩文作成の場とともに中国文学が輸入されたのに対し、江戸期においては、東アジア共通の文学の一つ、日本においても文学ジャンルの一つとしての観点から中国文学が受容されたことが明らかにできた。
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