本研究は、江戸時代、元和4年(1618)、那波道圓により刊行された『白氏文集」那波本の現存するものを調査収集し、諸本の本文・書き入れなどの状態を比較研究した上で、書誌的に見て、最善の那波本を影印刊行することで、白居易研究の便宜を高め、白居易研究の発展に寄与することを目的とする、平成21年の研究実施計画は、(1)平成20年度までに実見調査し、あるいはマイクロフィルム化したものを除き、那波本諸本の全てを実見調査する。(2)これら諸本を比較研究し、影印刊行する善本をしぼりこむ、の2点であった。21年度はこの計画をほぼ達成した。(1)那波本重要諸本をほぼ全て実見調査した。(2)諸本の比較検討を行い、影印刊行する善本の候補を三本にしぼりこんだ。その第一本は、米沢市立図書館現蔵の本、第二本は天理図書館蔵本。第三本は、宮内庁書陵部現蔵の角倉素庵旧蔵本である。第一本、米沢本は書き入れや虫損がほとんど無く初印本中の善本である。同朋舎『白氏文集歌詞索引』所載の那波本白氏文集(詩編のみ)と比較すると、米沢本の方が印刷状態がよく、同朋舎本の誤植が本書によって確認できる箇所がある。第二本は、天理図書館蔵本。これは九条家蔵の素性のよい本で書きこみがない。第三本は、宮内庁本蔵本。特徴は角倉素庵が、京都の識者による旧鈔本『白氏文集』との校異の情報を全巻に書き入れている点にある。この中には現在失われている旧鈔本もあるので、これ自身貴重な旧鈔本本文である。22年度には、この三本を種々の面から検討し、影印本として何れを採用するか決定することになる。
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