今年度は、主として昨年度までの調査結果をうけて、本研究課題についてまとめの研究を行った。 1.清平山堂刊行の小説版本について まず清平山堂刊行の小説を中心に、家刻本としての清平山堂刊本の特徴を検討した。国立公文書館内閣文庫蔵本、北京大学図書館蔵本、中国国家図書館蔵本の紙質、版式等を比較検討した。その結果、破損が激しく、これまで清平山堂刊本であるかどうか確証の得られていなかった中国国家図書館蔵阿英発見残本についても、版心に「清平山堂」と刻されてはいないものの、他の二箇所に所蔵される版本との共通性から清平山堂刊本であるとの結論に至った。 2.清平山堂刊行の小説以外の版本について ついで清平山堂刊行の小説以外の版本については、国立公文書館内閣文庫所蔵の『新編分類夷堅志』と『唐詩紀事』、および京都大学人文科学研究所所蔵の『六臣註文選』を実見し、家刻本としての清平山堂刊本の特徴を検討した。あわせて明清時代の様々な刊本を調査することによって、清平山堂刊本の位置づけを考えた。 3.清平山堂刊本の所蔵状況について 最後に、清平山堂刊本の所蔵状況について、各種の書目、図書館目録等に基づき現状を整理した。 4.清平山堂以外の出版に関する研究 九州大学附属図書館に設置される濱文庫所蔵唱本を対象に、詳細な書誌目録の作成を行った。この作業をとおして、多様な版本を実際に調査することによって、清平山堂刊本の特徴を多角的な観点から考察する視座を獲得した。またあるテキストが繰り返し刊刻される場合の文字や版式の異同、同一の版木を用いて異なる書肆から繰り返し印行されることなど、実際の出版事情に関わる多くの実例を収集した。
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