1.本年度は豊子〓初期文学作品における夏目漱石の影響を跡付け、西槇偉は以下の論稿を発表した。まず、豊子〓の処女作というべき「法味」(1926)は漱石「初秋の一日」を踏まえながら、『門』の宗助参禅のくだりをも参照したのではないかということを、「門前の彷徨-豊子〓「法味」と漱石「初秋の一日」および『門』」西槇偉ほか編『漱石と世界文学』思文閣出版、2009.3、3-32頁で論証した。それから、豊の初期小品「憶児時」(1927)と『硝子戸の中』、「華膽的日記」(同年)と「柿」との関連については、それぞれ「響き合うテキスト(四)幼時体験の光と影-豊子〓「憶児時」と漱石『硝子戸の中』」国際日本文化研究センター紀要『日本研究』第39集、2009.3、65-84頁、そして「心の隔たり-豊子〓「華瞻的日記」と夏目漱石「柿」」日本比較文学会編『比較文学』第51巻、2009.3、93-105頁において検証し、豊の初期小品には漱石の影響が顕著であることを明らかにした。 2.研究協力者大野公賀は、博士学位請求論文「中華民国期の豊子〓-新たなる市民倫理としての「生活の芸術」論」を東京大学に提出した(2009.3.6)。そこで、豊子〓自身の思想変遷を概観し、上海開明書店と立達学園という二つの組織の接点、それぞれの成立、運営、構成員の思想傾向などをも分析した。 3.西槇偉は研究分担者呉衛峰、研究協力者林素幸とともに、2008年夏豊子〓旧蔵書を調査し、書目索引を作成し、解説文「縁縁堂蔵書について」(西槇)をつけ、付録「縁縁堂蔵書目録」(西槇・呉・林共編)もあわせて『文学部論叢』熊本大学文学部紀要、第100号、2009.3、261-276頁に掲載した。
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