本研究は、台湾における大衆文学研究の成果をまえながら、植民地における日本語大衆文学(特に探偵小説)の実相とその読者像を明らかにすることを目標とする3年間のプロジェクトである。 2年目にあたる本年度は、昨年度に引き続き、林熊生(金関丈夫)の小説「指紋」に焦点をあてた論文を執筆した。『立命館文学』に掲載されたこの論文は、「詩法的同一性」という切り口から、小説に描かれた「偽造旅券」の問題と、主人公の逃亡先である廈門という地域が台湾および帝国日本にとっていかなる意味を持っていたのかを考察じた。 単行本の刊行は来年度に予定されているが、昨年度の国際シンポジウム(「帝国主義と文学」)で行った林熊生に関する報告を、論文として執筆し投稿した。これも本研究課題に密接に関連するものであり、台湾における探偵小説について論じたものである。 また、植民地期の大衆文学というテーマとは直接的な繋がりはないが、日本台湾学会創立10周年企画として、この10年間の台湾研究の現状と課題を、研究領域ごとに報告・討論したものが、『日本台湾学会報』に発表した「台湾文学研究、この10年、これからの10年」である。
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