本研究の目的は、認知言語学によって明らかになった言語の主観性の、特にその命題事象内に表出する程度や様式に関して、言語間の多様性と類型化の可能性を、アジアの諸言語を主に言語類型論の記述的・実証的な研究手法によって明らかにすることである。 その目的に向かって、研究計画の2年目に当たる平成21年度には、事象構造、動詞意味論の主観性に関わる研究のうち、これまで中心的に研究してきた結果構文に関する研究成果を、他の構文の研究の雛形になるような形で集約し、内的状態述語構文など他の関連構文に関しても大幅に研究を進めた。 具体的には、文献資料としてアジア諸言語を中心に多言語の記述文法書(reference grammar)、個別言語あるいは複数言語の各構文、更に事象構造の言語類型に関する文献を収集し、主観性現象に関する記述や議論の要点を整理するとともに、これらから関連する用例を収集する作業を行った。結果構文のタイ語と英語の対照という形でまとめた研究成果を『結果構文のタイポロジー』の論文集にまとめ出版した。 また、以上のように各言語の各構文に関する記述的なデータの収集作業を精力的に行うとともに、そのデータにもとづいた汎言語的に適用可能なその主観性の定義の整理・設定・検証を進めた。主観性の定義にはLangackerやTraugottを例としていくつか近似のものが存在するため、それらの異同を明らかにし、それなの中で、類型論的研究を視座とした本研究の主観性の定義の位置づけを徐々にでも明らかにする必要がある。その作業も順調に進めることができた。 主観性の定義とその内的状態述語における言語対照研究の応用の研究成果を、現在ひつじ書房の『言語意味論講座』の『主観性・主体性』の巻に掲載予定の「主観性に関する言語の対照と類型」の章にまとめた。あと出版前の校正を待つのみとなっている。
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