本研究の目的は、認知言語学によって明らかになった言語の主親性の、特にその命題事象内に表出する程度や様式に関して、言語間の多様性と類型化の可能性を、アジアの諸言語を主に言語類型論の記述的・実証的な研究手法によって明らかにすることである。 その目的に向かって、研究計画の3年目に当たる平成22年度には、事象構造、動詞意味論の主観性に関わる研究として、移動構文・内的状態述語構文・敬語構文などに関して研究を進めた。 具体的には、文献資料としてアジア諸言語を中心に多言語の記述文法書(reference grammar)、個別言語あるいは複数言語の各構文、更に事象構造の言語類型に関する文献を収集し、主観性現象に関する記述や議論の要点を整理するとともに、これらから関連する用例を収集する作業を行った。現在、日本語との対照的な観点から、中国語・韓国語・タイ語などにおける移動動詞構文、授与構文、内的状態述語構文、敬語構文の資料が集まっている。 また、以上のように各言語の各構文に関する記述的なデータの収集作業を精力的に行うとともに、そのデータにもとづいた汎言語的に適用可能なその主観性の定義の整理・設定・検証を進めた。主観性の定義にはLangackerやTraugottを例としていくつか近似のものが存在するため、それちの異同を明らかにすることができた。 現在までの研究成果の部分にはなるが、10月日本英文学会第62回中部支部大会のシンポジウム(金沢大学)で発表し、またまもなく出版される『ひつじ意味論講座』の『主観性・主体性』の巻に「言語の主観性と類型論」の章を執筆した。
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