本研究の目的は、認知言語学によって明らかになった言語の主観性の、特にその命題事象内に表出する程度や様式に関して、言語間の多様性と類型化の可能性を、アジアの諸言語を主に言語類型論の記述的・実証的な研究手法によって明らかにすることであった。 その目的に向かって、研究計画の最終年度に当たる平成23年度には、これまでに収集した資料および研究成果をまとめるとともに、積極的に研究成果論文発表、学会等での口頭発表を行った。 具体的には、文献資料としてアジア諸言語を中心に多言語の記述文法書(reference grammar)、個別言語あるいは複数言語の各構文、更に事象構造の言語類型に関する文献を収集し、主観性現象に関する記述や議論の要点を整理するとともに、これらから関連する用例を収集する作業を行った。日本語・韓国語・中国語・タイ語他における移動動詞構文、授与構文、内的状態述語構文、敬語構文の資料がさらに収集できた。またそれらのデータにもとづいた汎言語的に適用可能なその主観性の定義の整理・設定・検証を進めた。 成果発表としては、日韓語の敬語構文の違いに関してドイツの出版社からの認知言語学論文集に論文が掲載され、『ひつじ意味論講座』の本年度出版された『主観性・主体性』の巻の「言語の主観性と類型」の章を執筆した。 また、11月の日本英語学会の大会(新潟大学)の「(間)主観性の諸相」と題されたシンポジウムではディスカッサントを務め、subjectivityにもLangackerやTraugottなど異なり主体性と主観性を区別すべきこと等を指摘し、年度末の3月にはそのシンポジウム講師らを中心に、主観性研究に著名な研究者3名とともに計11名の研究者の発表会「言語と(間)主観性研究フォーラムin仙台」を主催した。
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