当該年度は5年間の研究期間の中間の3年目にあたり、なるべく多くの事例研究を積み上げるようにつとめた。 前年度から継続して研究している留保表現(enclosure)については、発話文全体を対象とする概略性と、発話文中ある辞項に対応する概念の近似性との間で共通の扱いが可能であり、それがモダリティのひとつの源泉になっているという考察を行ない、論文にまとめた。 モダリティ副詞の研究においては、J.-Cl.Anscombreらが提唱するステレオタイプ理論(theorie des sterreotypes)を応用した分析の有用性が明らかになり、2010年9月22日、チュニジア共和国で開かれた研究会でフランス語で口頭発表・討議を行なった。この点については、理論の検討もふくめて、ひきつづき考察を深めてゆきたい。 動詞形態については、ジェロンディフと現在分詞の機能についてのデータ収集、検討を開始した。 平素の活動としては、筑波大学内で5回にわたり研究会(うち4回は科学研究費補助金(基盤研究(C))19520414「日英語ならびに西欧諸語における時制の比較研究」(研究代表者和田尚明)と共同開催)を実施したほか、学外から講師を招いてつぎの2つの公開講演会を実施し、新たな知見を得るとともに、相互に討論を行なった。 ・酒井智宏(東京大学学術研究員)「矛盾文と自然言語における規範性の源泉」(2010年9月3日(金)15時から17時) ・川島浩一郎(福岡大学准教授)「非現実モダリティと過去時制」(2010年11月4日(木)15時から17時) 成果の公表については、別欄のとおり論文、研究発表、著書を公にしたほか、2011年度に公刊予定で準備中のものもある。
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