研究概要 |
本研究は、「甘い罠」のような形容詞比喩の意味の生成と理解過程について、認知言語学に基づく理論構築を行い、大規模データの分析、心理実験、計算機シミュレーションといった多角的手法の統合により、理論の検証を行うことを目的とするものである。 平成20年度の研究により、形容詞比喩の一種である共感覚比喩は否定的な意味の喚起が起きる傾向があり、特にその傾向は色彩を表す形容詞から作られる比喩において強い、ということが確認され、その成果を国際認知科学会(CogSci2009)で発表した。 平成21年度は,否定的意味が喚起される認知的メカニズムを明らかにするために、理解度の高低や慣習度の違いなど,否定的解釈の生成と関連しうる要素と比喩の否定的解釈との相関をみるための心理実験を行った。その結果、否定的意味の喚起には、理解度や慣習度は必ずしも大きな影響を与えていないことがわかった。そのため、追加実験として、喩辞単独から想起される語と被喩辞単独から想起される語を被験者に提示し、各形容詞比喩の意味と結びつく語を選択させる追加実験を行った。その結果、否定的な語が有意に多く選択されやすいことなどが確認され、形容詞比喩において否定的な意味が喚起される要因として、喩辞単独から肯定的な意味要素が潜在的に喚起されていても、人は否定的な意味要素の影響を強く受けやすいということを確認した。また、同年度の研究により、形容詞比喩の意味の処理過程において、喩辞から喚起される知識と被喩辞から喚起される知識が経験上共起するイベント知識の重要性も明らかにした。この研究成果は、日本認知言語学会第10回大会で発表している。
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