本研究の研究成果はつぎの三点である。一つは、音節という音韻単位の言語普遍的な役割を中間言語に確認したことである。これは日本語を第2言語として習得している過程で自然発話に現れる音節を分断する発話の非流暢性の統計的分析から、英語母語話者、朝鮮語母語話者、中国語母語話者が共通して初級レベルでは音節単位の分節の非流暢性を多発し、上級レベルでは母語の主となる音韻単位と日本語のモーラの分節の非流暢性が多発する発見に基づいている。二つめは、中国語(北方方言)母語と日本語(京阪方言)母語の吃音者に共通して発話における非流暢性に後続する超分節的特徴に囚われて発話の非流暢性を多発することの発見である。日本語母語話者の語頭モーラを繰り返すタイプの吃音では、非流暢性が生じているモーラではなく、ピッチアクセントのアクセント核が非流暢性に後続するモーラの位置にある語で非流暢性を有意に多発している。中国語母語話者も語頭音節の非流暢性にもかかわらず、それに後続する音節に特定の声調(第4声)がある語で非流暢性を有意に多発する。三つめは、University College LondonのPeter Howell教授と協力して、日本語と英語の吃音症状がその個別言語の構造の特性によって異なって現れ、それが吃音の診断に大きく影響することを、英語と日本語の非流暢性の実証的統計的研究を通して明らかにしたことである。これまでに蓄積した日英語母語の吃音者と非吃音者の発話の非流暢性における分節と音声の移行の研究成果に加えて、日英語の形態的、統語的構造が異なることを新たな追加依拠としてあげ、英語の非流暢性で数多く現れる語の繰り返しが、日本語の非流暢性では相対的に少ないことを明らかにし、語の繰り返しが吃音の診断基準から外れることを示唆した。この語の繰り返しが吃音症状なのかどうかは、これまでの吃音研究で議論されていた。
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