本研究は、幼児の言語獲得期に観察される音韻障害と、成人の第2言語や外国語習得に観られる、いわゆる外国人訛りを比較し、その共通点と相違点を明らかにすることによって、人間の音韻獲得のメカニズムの本質に迫ろうとするものであった。本年度の計画は、まず成人の第2言語習得にみられる外国語訛りのデータ収集から始め、可能であるならばこれを分析し、また同時に幼児の機能性構音障害の事例をいくつか収集し、これを分析することにあった。このうち外国語訛りに関しては、大阪大学外国語学部英語専攻学生の発話データを収集した。 被験者数は約20名と少なかったが、彼らからは1年前に同じ発話データを収集しており、1年間の音韻体系の質的な変化をみることができた。このデータの特にプロソディーに注目し、これまでほとんど論じられなかった文の核アクセントの誤用が特定の統語範疇に限られている事実の説明を、音韻論、語用論、統語論の総合的な立場から試みた。この結果は、国内の研究会等で発表した。また被験者の1年間の学習期間を経て、音韻知識と実際の産出がどのように変化するのかを考察し、習得の音韻類型を提案した。これは国際学会で発表し、現在論文として投稿中である。 機能性構音障害に関しては、過去に収集した事例から、言語学的な分析が有効な事例を選び、国際学会で報告すべく、音韻、音響の両面から分析中である。 また外国語訛りや構音障害は、方言音声と類似する部分が多く、方言の音韻事象も研究対象としているが、今年度は静岡方言の動詞強調形の形態音韻的側面を分析し、論文にまとめた。
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