本研究は、幼児に見られる機能性の音韻障害と、成人の第2言語習得や外国語学習において見られる外国語訛りの平行性を捉え、その成果を、いわば相互乗り入れ的に、構音の矯正や発音の教育に応用しようとするものであった。 実施3年目の本年度は、幼児の構音障害と成人の外国語訛りの双方で、事例研究をおこない、逸脱発音を音声学・音韻理論からこれらを分析した。まず構音障害では、母音[o]がすべて両唇鼻音に変化する非常に珍しい日本人幼児のケーススタディーをおこなった。なぜ両唇音で置換されるかは、母音[o]のもつ円唇性(音韻素性でいうと[+round])であることは明らかであるが、この円唇性は日本語においては余剰素性であり、本来獲得すべき素性を犠牲にして、いわば必要のない余剰素性を獲得することも音韻障害のひとつの原因であることを示したことで、意義深い研究となった。ちなみに本研究の成果は、第13回国際臨床言語学・音声学学会(2010年6月、ノルウェー王国オスロ市)において発表した。 また成人の外国語訛りに関しては、前年度のプロソディーに関する研究を引き続いておこない、特に日本人の英語習得時に見られる、文レベルでの強勢の誤配置を分析した。このテーマについては、すでに前年度末に第2回国際英語音声学研究者会議(2010年3月セルビア共和国ベオグラード市)において、概略を発表しているが、今年度はその結果をさらに詳細に検討し、今年度出版予定の、同会議の発表をおさめた論文集に寄稿した。
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