研究概要 |
本研究の目的である、逸脱発音の普遍性に迫るべく、最終年度は主として機能性構音障害の分析のまとめを音韻理論からおこなった。まず幼児の音韻障害を臨床的視点からとらえ、現在障害のアセスメントや構音訓練で、もっとも広く採用されている、音韻過程分析の問題点を指摘しながら、大人と同じ(それ故正しい)規定表示を獲得していると先験的な前提に立って、逸脱発音を動的な音韻変化のみに帰するこの理論の問題点を、上田(2013)で論じた。さらに構音障害の発達的な問題点として、正常発達には見られない弁別素性指定を、獲得終了期を超えて保持することが、多くのケースに該当する事を、Ueda(2013b)で主張し、さらにこれは日本語のみならず、他言語においても普遍的に当てはまる音韻障害の原因であることを論じた。 普遍性に関しては、さらに国際共同研究プロジェクトの拠点である、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学において、他言語との比較・対照をおこなう国際会議に出席して、この点を広く議論し、プロジェクトの共通のアセスメント・テストの日本語版を用いてデータ収集をして、これを分析した日本語の事例を紹介する発表をおこなった(Ueda, Tabata and Yamane 2013)。さらにケーススタディーとして、日本語のラ行音の障害児の発達過程を調べ、それが伝統的に主張されてきた後続母音との共起とは必ずしも関係せず、独自の発達過程を示すケースもあるので、臨床においては、構音障害は必ずしも画一的ではなく、独自の体系や発達をもつという意識が必要であることを主張した(Ueda 2013a)。
|