研究概要 |
本研究の目的は,諸先行研究が理論的に示したイントネーション決定規則が,現実の対話のイントネーションにどの程度合致するかを検証することである。本年度は,東京方言話者による対面会話の収集を継続するとともに,アナウンサーによるナレーション音声を収集し,それらにもとついて「アクセント連結規則」(文節間の意味的限定関係とフォーカスによるアクセント実現度の調整規則)について検討を行った。具体的には, 1. 東京方言話者による対話(30代女性2名)を約1時間分を収録し,その文字化を行った。 2. NHKアナウンサー16名による同一内容の番組ナレーションを収集し,その印象評定実験を行った(使用許諾済)。 3. 対話資料およびナレーション資料について,文節問の意味的限定関係およびフォーカスがアクセントの連結様式(弱化または強化)におよぼす効果について検討を開始した。 4. 上記3の作業には,会話におけるフォーカスの位置を同定することが必要となるが,その暫定的基準を定めた。 5. アクセントの弱化および強化の程度の差違がもたらす聴覚的効果について,合成音声を用いた聴取実験を企画し実験を開始した。 その結果,文節間の意味的限定関係およびフォーカスについて従来示されていた規則は,どの資料においてもおおむねあてはまることが明らかになった。興味深い知見として,ナレーション資料には上記規則から逸脱しない範囲内でアクセントの弱化・強化の程度に細かい変異が見られたが,それらとナレーションの「じょうずさ」の評定との間には対応関係が見られた。また,合成音声による聴取実験からは,アクセントの弱化・強化の程度が「やさしさ」など対人態度に関わる印象を左右する要因になっているという示唆も得られた。これらはアクセントの連結様式が,従来示されていた言語学的な重要性だけでなく,より広い重要性を持つことを示す。
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