今年度の最も大きな成果は、日本語の「名詞+形容詞」の複合形容詞や複合形容動詞(e.g.意地悪い)と「名詞+動詞」の複合語に「する」が結合する複雑述語(e.g.値下がりする、箱詰めする、あく抜きする)について、それらが、主要部の項を語の内部で満たすにも関わらず、新たな項との叙述関係をもつのはどのような理由によるかを考察し、名詞の特質構造から、新たな項を獲得し、複合語の項構造を決定するメカニズムを説明する分析を提案したことである。この分析によって、これまで本プロジェクトで提案してきた、特質構造が語形成において新造語の項構造や概念構造を決定する際に寄与する可能性があるという仮説がさらに支持されたことになる。この分析では、このタイプの複合が本来主要部がとる項を語内で満たすことにより、表そうとする事象に関わる他の参与者を新たな項として表わしそちらに焦点を移すという目的をもつことを指摘し、日本語の複合の多様性に、新たな観点の必要性を示した。この成果をまとめたものは2010年度中に国際ジャーナルに掲載予定である。また、王倍淳氏との共同研究では、日本語の反復や修復を表す複合動詞「V+直す」や「V+かえる」について私が提案した概念構造が中国語の対応する複合動詞においても、有効であり、また、さらに中国語においては、統語的複合語でありながら、日本語の語彙的複合動詞に対応するパタンでの概念構造の合成があり得るという興味深い観察を示した。
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