本研究課題の統語構造の階層性に関する対照言語学的研究は本年度が初年度にあたり、特に、研究基盤を整えることに力点を置き、理論的考察のための基盤づくりや研究目標達成のために必要となる基礎的な研究を進めた。具体的には以下のように計画を進行させている。まず、言語現象を的確に記述できる理論開発のために、文献の調査などにより既存の理論的な枠組みの問題点を検証し、整理した上で、理論的に必要な道具立てはなにかという検討を行った。実証的な側面と理論的な側面の双方から、既存の統語理論における、理論的構築物の長所・短所や問題点について検討するために、日本語および英語を中心に基本となるデータの収集と整理を行い、日本語・英語のいくつかの構文の比較対照を行った。その過程の中で、特に、述語の表す意味と形式に関して、「名詞句+動詞」の連鎖を持つイディオムとそれと同じ動詞が現れる通常の文との比較を行うことができた。その結果、イディオムの構文は、通常の名詞句とは異なる配置をするものが多くあることが分かり、それに対する理論的な考察を行った。また、その述語の意味が異なれば、項の標示の形式が同じであっても統語的な階層性が異なってくる現象が存在することを明らかにできた。イギリスおよび合衆国に出張し、他の研究者との意見交換および研究発表を行った。また、初年度の成果の一部は、二つの国際学会で発表することができた。以上のように、初年度は着実な研究の進展と成果が得られたと考えている。
|