本研究の目的は、これまであまり否定と関連づけられてこなかった現象にも着目し、その意味解釈や相関関係を考察することにより、否定とその関連現象の双方の意味を明らかにすることである。取り扱う否定関連現象として、否定と直接的な関連を持つ否定極性表現に加え、時に関する副詞表現や時の量化などの時制・相の意味論に関する現象、個体量化表現や複数表現に関する現象、取り立てや尺度含意に関する現象などが挙げられる。楠本は否定の状態性の研究をさらに進め、状態性をもつ他の構文との比較を行った。特に埋め込み文において、状態性という共通点を持つ構文に他の共通点を見いだすことが出来た。また時の副詞節と否定・否定極性表現についてデータ収集を行った。タンクレディは、否定極性表現の研究に取り組み、特にその疑問文における分布や意味解釈を取り立てのスケールという観点で分析する理論を提案した。これまで否定極性表現の認可条件として、下方含意を用いた理論が指示されて来たが、疑問文における否定極性表現は下方含意では説明が出来ないまたは困難な典型例であった。タンクレディの理論は疑問文を特例とせず、下方含意を用いずに認可条件を一般化しようと試みるものである。この理論は形式化されていないだけでなく、焦点化との関連からも問題点が散見されるが、否定と様々な現象の関連という意味でさらに追求すべき論点を多く含んでいる。西山は、日本語や英語の時制・相体系に関わる研究を行った。特に英語の完了形に関する研究では、その意味の中核が結果状態であり、それ以外の様々な用法は語用論的に説明されるべきだと主張した。この点で楠本の提案した否定の意味との共通点が見られるが、その相互作用について今後研究していく必要がある。
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