研究概要 |
本年度は、まず、名詞句の日中語比較に関するT.-H.Jonah Lin氏、村杉恵子氏との共同研究を完成させ、専門誌Journal of East Asian Linguistics( Springer,Dordrecht)に"N'-ellipsis and the structure of noun phrases in Chinese and Japanese"と題する共著論文を発表した。この論文は、N'削除や分類辞の分布にみられる日中語間の様々な相違が、主要部パラメターによって統一的に説明されることを示すものであり、その方法は、すでに他の研究者によって文構造の比較にも適用されている。 移動現象に関しては、文左方周縁部、動詞句左方周縁部の統語的機能と意味解釈について、日本語とヨーロッパの言語との比較研究を進めた。第一に、日本語において文頭に位置する句の作用域と談話的機能(主題および焦点)を詳細に検討し、文左方周縁部の句構造に関するイタリア語、アイルランド語との比較研究の方向性を示唆した。12月には、中国の広東外語外貿大学で開催された国際学会において基調講演を行い、この研究成果を発表した。第二に、移動現象の分析において重要な役割を果たす動詞句左方周縁部の統語的性質について、日本語とフランスとの比較研究を瀧田健介氏と共同で行った。この研究に基づく共著論文"On the variety of movements to the vP edge"(『語彙と意味の文法』(くろしお出版)所収)は、フランス語においては当該位置への移動がAあるいはA'の性質を有するのに対して、日本語ではつねにスクランブリングの性質をもつことを明らかにし、この相違の根底にあるパラメターを検討したものである。 以上に加え、来年度の研究に向けて、主格目的語の統語的・意味的性質、削除現象の日韓語比較に関する予備研究を行った。
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