研究課題
名詞句構造については、昨年度、The 6th Workshop on Altaic Formal LinguisticsにおいてDuk-Ho An氏と共同で発表した論文"A Comparative Syntax of Ellipsis in Japanese and Korean"を書き上げ、MIT Working Papers in Linguisticsに公表した。日韓語の削除現象全般を比較した論文であるが、両言語間の顕著な相違がN'削除現象の有無にあることを指摘し、この相違が属格挿入規則に係るミクロパラメターによって説明されることを論じている。文左方周縁部の統語構造については、日本語と最も研究の進んでいるロマンス系言語の比較を体系的に行った。まず、日本語の補文標識「と」が、これまで考えられてきたように命題の埋め込みを示すものではなく、スペイン語のqueと同様に直接引用の言い換えを表す機能を有し、補文標識の中で最上位に位置することを示した。この記述的研究は、すでにJournal of Japanese Linguisticsに公表している。次に、Luigi Rizzi(1997)の補文標識の階層性に関する理論に照らして、日本語の関連するデータを詳細に分析した。Rizzi氏は、イタリア語の分析に基づいて、Force-Topic^*-Finiteという階層を提案しているが、本研究では、補文標識「か」と「の」および中立主題の分布を検討することにより、日本語にも同様の階層があることを示した。このことは、日本語左方周縁部が、イタリア語の階層に、直接引用の言い換えを示す「と」を上位に加えた構造を有することを意味し、日本語とロマンス系言語の類似性が明らかになりつつある。この成果と2008年度に行ったスクランブリングの分析を統一して、日本語左方周縁部の全体像を明らかにする研究を現在進めており、来年度公表する予定である。3年間の研究を通して、日本語の類型論的位置付けが明確になってきている。来年度は、これまで追求してきた分析を完成させ、日本語の文法格システムや主要部後置型句構造と関連付けることにより、日本語文法を特徴付けるパラメター群を具体的に提示することをめざす。
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MIT Working Papers in Linguistics #61 : Proceedings of the 6th Workshop on Altaic Formal Linguistics
巻: 61(招待により適用外) ページ: 287-307
Journal of Japanese Linguistics 26 : Special Issue in Memory of S.-Y. Kuroda
巻: 26(招待により適用外) ページ: 85-100
http://nzn.jim.nanzan-u.ac.jp/rd/index.php