本年度は、文左方周縁部の構造、名詞句構造の日中語比較、日本語における文法格の認可と句構造の派生を主要な研究テーマとして設定したが、それぞれのテーマについて成果を得ることができた。 文左方周縁部構造については、日本語補文標識「と、か、の」の意味的特性と階層構造について、スペイン語、イタリア語と比較しつつ研究を進め、イタリア語との比較における日本語の特徴は、引用の言い換えを表す「と」の存在と焦点の投射の欠如に集約されるとの結論を得た。8月28日に津田塾大学言語文化研究所「英語の共時的及び通時的研究の会」発足25周年記念大会における講演として成果を発表し、論文が同研究所編集の論文集に収録される予定である。さらに、日本語のモーダルと終助詞をとりあげて、裸句構造理論を発展させる形で新たな分析を示し、3月末にコネティカット大学で行った連続講演の中で発表した。同大学での意見交換をふまえた論文を現在執筆中である。 名詞句構造の日中語比較については、2008年にJournal of East asian Linguisticsに発表した共著論文を発展させ、分析の帰結を追究する研究を展開した。3月には台湾国立清華大学に共著者のT.-H.Jonah Lin氏を訪問して、集中的に共同研究を行っている。日本語の文法格と句構造派生では、近年標準的となっている「一致」による日本語文法格の分析を批判的に検討して、新たに「併合」に基づく分析を提示した。また、分析の帰結を様々な角度から検証し、R.Kayne氏による語順に関する一般理論(LCA)の日本語への適用が可能になることを示した。この成果は、9月7日~8日に三重大学にて開催されたGLOW in Asia(アジア理論言語学会)若手研究者ワークショップにおいて招待研究発表を行い、公表した。発表の内容は論文として、Nanzan Linguistics 8に掲載されている。
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