(1)類語検索型アルメニア語新約聖書シソーラスを作成するための基礎作業として、平成21年度に行った意味領域に基づいた語彙比較調査を継続して行った。平成22年度は「全体と部分、比較、否定、真偽、権力、地位」などの意味領域、そして文法的な意味領域として主に前置詞による格関係(動作主、被動作主、使役、道具、起点、経験者、受益者など)、談話標識(談話の移行、結束性、強調、卓立性、呼びかけなど)、さらに談話指示関連領域(話し手、聞き手、相互指示、関係指示、直示など)を対象として、アルメニア語新約聖書語彙を実際に生起する本文とともに抽出・分析して、データベース化を実施した。上記作業と並行して、アルメニア語固有名(人名、神名、地名)についてもギリシア語語彙とともにデータベース化した。 (2)アルメニア語・ギリシア語新約聖書語彙の比較分析の実例として、特に「罰と報い」(Punishment and Reward)に関する語彙について、それらの現れる本文を文脈とともに検証して、ギリシア語語彙との意味的差異を明らかにしようとした。アルメニア語では原則としてギリシア語語彙に一対一対応で訳語が選定されているが、語彙によってはギリシア語の複数の語彙にまたがって対応している例が見られると同時に、興味深い異訳現象もいくつか観察された。この現象は、アルメニア語翻訳者の独自の宗教観・倫理観に基づくテクスト解釈に対する表現上の創意工夫を反映しており、今後アルメニア語シソーラスを編纂する際に不可欠な情報を提供するものであることを明らかにした。
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