研究概要 |
ドイツ語における「bekommen受動」ないし「与格受動」と呼ばれる構文(ex.Er bekommt das Buch geschenkt.)をめぐっては意味上の主語,すなわち外項の抑制を伴う統語的受動文であるか(Reis 1985),あるいは外項の抑制を伴わない構文であるか(Haider 1986)について議論されてきたが,本研究ではおもに次の4点から後者の立場を支持した。1)まず,統語的受動文と受動的解釈は区別しなければならず,後者は例えば本動詞bekommenと前置詞句が共起している構文にも見られる(ex.Er bekommt eine Kugel in den Arm.)。すなわち受動的解釈が認められる構文のすべてを統語的受動文とみなすことはできない。2)受容者ではなく,いわば「失い手」を与格として実現するstehlen`steal'からもbekommen受動が形成されることから,この構文におけるbekommenは「もらう・受け取る」という文字通りの意味を失い,助動詞として文法化されているという指摘がある(Askedal 1984)。しかし,この場合のbekommenもある(ネガティブな)「出来事」を受け取ると分析できるため,bekommenが助動詞化されているとは考えにくい。3)bekommen受動が統語的受動であるなら,与格を含むイディオムに対しても自由に適用されるはずであるが,実際には厳しい意味的制約が課せられる。4)ドイツ語の対格は,werden受動以外にもいわゆる構造格であることを示す根拠があるが,与格については極めて乏しい。 本研究ではさらに,bekommen受動は談話の流れにおける要請を満たすために与格名詞句を主語として実現するための構文であると分析した。
|