研究概要 |
「視点」概念を軸に,日独語の構文の特性を対照的に記述することが本研究の目的である。今年度は,とくに日英語対照研究および認知言語学関係の文献を閲読し,本研究での視点概念と関連する問題領域について考察した。筆者の以前の研究では,視座と注視点の区別が日独両言語の構文を対照する上で重要であると考えていたが,その後,より広い言語現象を説明する枠組みとして「表現主体(≒視座)の位置の違い」という考えに至った。すなわち,ドイツ語では表現主体が事柄の外側に視座を据え,参与者(表現主体自身を含む)からは一定の距離を取り,当該の事柄を表す傾向があるのに対して,日本語では,表現主体が事柄の内側に視座を据え,参与者の何れかに寄り添うようにして,事柄を把握する傾向があるという考え方である。このように,表現主体の視座の位置の違いを基本原理とした場合,日独両言語間に見られる表現パターンの異なりのうち,どのようなケースがこの原理によって説明できるかを,小説原文と翻訳の比較などを通じて考察し,6月の日本独文学会で発表した。夏に研究滞在を行ったマンハイムのドイツ語研究所では,数名の文法研究者にこの考え方を聞いてもらい,概ね理解を得た。また,日独両言語における動詞の機能の違いという観点からも考察し,日本語の「〜てくれる」と対応するドイツ語表現について,実証的・統計的に考察し,8月の国際会議で発表した。また,この問題との関連で,2009年3月には,ドイツ語と日本語の受動態の相違というテーマに関連して,日本語母語話者に対するドイツ語授業での受動態の扱い方について口頭発表を行った。
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