訓詁学的な意味を持つ音注の調査の一環として、以前より継続してきた史〓『通鑑釈文』と胡三省の『音注資治通鑑』の比較分析を進める過程で発見した胡三省『音注資治通鑑』序と『通鑑釈文辯誤』後序の記載に関する問題について、「史〓『通鑑釈文』と胡三省『音注資治通鑑』」として『富山大学人文学部紀要』第49号に発表。今年度の科学研究費補助金により、新たに『詩』の経文に見える文字に附された音注の史的変遷に関する調査に着手した。具体的作業としては、まず陸徳明『経典釈文』の『詩』の経文に附された音注(反切、直音、必要に応じて経文のテキスト異同)に関する記述を抜き出して表を作成し、次に朱熹の『詩集伝』二十巻(四部叢刊本)、『詩経集伝』八巻(四庫全書本)の『詩』の経文に見える文字に附けられた音注(反切、直音、必要に応じてテキスト異同)を比較しながら対照表を作成した。また、朱熹『詩経集伝』八巻の怡府藏板本には夾注はなくても圏点が附された箇所があるため、四庫全書本だけでなく怡府藏板本も参照し、夾注が二十巻本にあって八巻本にない場合にはそれを注記することとした。『経典釈文』『詩集伝』『詩経集伝』の音注対照表は予定通りほぼ完成し、「『詩集伝』の音注」として『富山大学人文学部紀要』第51号に発表を予定している。これにより、従来看過されてきた『経典釈文』と『詩集伝』の差だけでなく、『詩集伝』の二十巻本と八巻本の夾注の違いがより明らかになり、訓詁学的音注の史的変遷の一端をうかがうことができるだけでなく、数年前よりしばしば論争の的になっている『詩集伝』二十巻本・八巻本に関する問題についても、参考資料が提供できるものと思われる。
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