当初の研究計画では、平成22年度は、前年度に実施したアンケート調査によって得られた日独両表現を対比し、その成果を発表することになっていた。ところが、平成21年度に行った予備調査により、本調査の質問項目を根本的に再検討する必要が生じた(なお、予備調査の結果については、平成22年6月広州(中国)および同年10月東京で開催された国際学会で口頭発表済み)。そのため、日本とドイツにおけるアンケート調査は平成22年度に実施することとした。ドイツでの調査は平成23年1月に実施した。事前に調査予定の数都市の教育委員会を通じて小学校での調査の許可および実施への協力を要請しておいたが、個人情報保護の観点から協力を躊躇する保護者が多く、また、ドイツ語が母語でない家庭は排除したため、回収できた有効回答数は51にとどまった。日本での調査はその後、平成23年2月に実施し、146の有効回答が得られた。記入式アンケートで、日独で対応する8場面を設定し、各場面で保護者は子供に対してどのような発言をするのかを調査した。その結果の一部を紹介しよう。自分の子供が歩道をふざけて走り、小さな子供と接触してしまい、相手の子供をしりもちつかせ、泣かせてしまったという場面で、保護者はどういう発言をするか。日本ではまず子供に対して、悪いことをし、相手を困らせてしまっていることを認識させ、謝らせるが、ドイツではまず泣いている子を慰め、立たせた上で、謝らせるという違いが顕著に認められた。これは、言語表現の視点という観点からだけでは説明困難で、特定の場面で期待される行動パタンが言語文化ごとに違っている可能性を示唆するものである。これらの成果の一部は、平成23年11月と平成24年3月の2つの学会で口頭発表し、機関誌に投稿・審査中である。
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