1996年にソシュール邸で発見された自筆草稿の一部「言語の二重の本質について」と題された草稿は、ガリマール版Ecrits de linguistique generaleの前半に収録されているが、オリジナルの草稿のマイクロフィルムに基づいて校訂を進めた結果、多くの判読の誤りがあることが判明した。ギリシャ語、とりわけサンスクリット語の誤りが目に付くが、このためにガリマール版は意味のとれない本文となっている。またジュネーヴ図書館の草稿の整理番号とは異なった順序となっているが、何の説明もなされていない。おそらくガリマール版の校訂者エングラーとブーケにとっても意味不明な箇所であったと思われるが、これは校訂だけの話に留まらない。なぜならば、そこでソシュールは、パーニニ文法への言及をしており、ソシュールの言語学的格闘が繰り広げられていたからである。このことが校訂と注釈の作業の過程で明らかになったことは大きな収穫であった。
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