研究概要 |
本研究は,ソグド語と古代のチュルク語との言語接触の全貌を,我々に残されている資料が許す限り包括的に明らかにすることを目的としてきた.この目的のもとに,言語接触が最も如実に表れるマニ教ソグド語資料のうち,未研究のものを全点調査し文字転写を作成した.これは未発表であるが300頁ほどに及ぶ.また10~11世紀において,古代チュルク語とソグド語のバイリンガルの話者が書いた特異なソグド語について,一般言語学の知見を援用し言語学的な分析を加え論文として発表していたが,この論文を発表した後にも新たに同種の資料が発見され,その文書(手紙と帳簿)を世界に先駆け研究し発表することができた.チュルク語の強い影響を示すこの種の特異なソグド語の嚆矢が,9世紀初めのカラバルガスン碑文であることを示したのは筆者であるが,この間には歴史学的に見ても重要なこの碑文のソグド語テキストの全面的な改訂版を作成し,特に重要な知見を論文として発表した.これまで言及したものは主に古代チュルク語からソグド語への影響であるが,ソグド語から古代チュルク語への影響として,ウイグル語(古代チュルク語の重要な方言)文献に見られるソグド語からの借用語をあつめて整理した.ウイグル語文献は現在までに発表されたものだけでも膨大で,網羅的に収集することはできないが,相当数の借用語を集めることができた.ただまだ発表できる段階に至っていない.これらの主に言語学的な研究とは別に,言語接触が発生した歴史的な背景を明らかにするために,ソグド民族の歴史を包括的に検討したが,その成果としてソグド人の歴史と文化に関する本を出版していた.この年度ではその副産物として,本来横書きのソグド文字が縦書きされるようになった時代や経緯について研究発表を行った,
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