研究概要 |
本年度も、文献学の手法と言語学の方法を用いた実証的な研究を行うためのデータの集積を重視し、テクストのデータ化の作業を継続して行うこととし、昨年に引き続き、ロシア年代記『過ぎし年月の物語』、南スラブ系聖者伝『キリル伝』『メトディオス伝』、東スラブ系聖者伝『無名作者によるポリスとグレブの物語』、古教会スラブ語の規範的テクストとしての『古教会スラブ語福音書』を用いて、作業用基本テクスト作成の作業を継続した。また、古教会スラブ語旧約聖書の一部テクストおよび新約の使徒書簡テクストを、Ribarova, Z. and Z. Chauptova校訂テクスト、Grigorovicev Parimejnik等に従ってデータ化する作業を開始した。 また研究計画の3年目を迎え、研究の収束に向けて、もっとも中心的な課題となる『古教会スラブ語福音書』の言語から『過ぎし年月の物語』の言語への影響関係の有無を明らかにする議論の一環として、『古教会スラブ語福音書』「マルコによる福音書」中の3つの指示代名詞sъ「近称」、onъ「遠称」、tъ「中称」の使用を分析した。分析の結果、ロシア年代記『過ぎし年月の物語』におけるこれらの指示代名詞の特徴的な用法は、古教会スラブ語の段階においても、萌芽的なものとして、すでに存在していたことが観察された。
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