本研究はスラブ世界最古の文章語としての古教会スラブ語が、11 世紀~13世紀の古ロシア文章語の成立に際してどのような影響を与えたか、テクスト言語学の見方から検討するものである。結果として、古ロシア年代記『過ぎし年月の物語』に見える指示代名詞sь「近称」、onъ「遠称」、tъ「中称」の分布、また「onъ ze+動詞」という構文の特徴的な使用が「マタイ」「マルコ」「ルカ」の3つの福音書、すなわち共観福音書にその起源を持つと考えられることが分かった。ギリシア語原典で共観福音書とは異なる文体的特徴を示す「ヨハネによる福音書」が果たした役割については、なお検討が必要である。
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