研究概要 |
1. 2010年10月中旬より本年1月中旬までの期間に大阪府および兵庫県の教員委員会などを通じて、両地方自治体の計14の小学校に在籍する26名の新渡日児童に対し,フィリピンの小学校にて2度にわたる実験を行うなどして,試行錯誤の結果,昨年度改訂・開発した,フィリピン語母語話者のための学習思考言語能力を測定するためのテスト(低学年用・中学年用・高学年用の3つのレベル。語彙力・論理力・認知力・読解力により構成)を実、施した。 2. 集住しているブラジル人などと異なり,フィリピン人女性と日本人男性の国際結婚などにより来日したフィリピンにルーツをもつ児童の場合,各学校に1名から2名しか在籍しておらず,試験を実施するたびに当該小学校に赴かざるを得なかった。試験(30分程度)は,校長または教頭に加え,サポーターの立ち会いの下で行った。答案は採点を行い,試験結果と寸評(総論,各論,今後の対策)を各学校に送付した。 3. 上記26名の試験の結果を分析すると概要以下のとおりである。 (1) いずれも学年においても,またいずれの能力においてもフィリピン在住の児童に比べると平均点が低い。 (2) 対日歴が1年以上になると,例外の者もいるが,母語の喪失が次第に顕著になる。とくに,3, 4年経過している場合は,家庭内言語がフィリピン語であっても,読み書き能力は来日時のままか,あるいはそれ以下になっている。 (3) 庭内言語がフィリピン語の場合でも,読み書き練習を行う場がない現状では,学習思考言語能力を涵養することが不可能であり,このまま何らの手当も施されないと母語を自然に喪失し,日本語学習や教科学習にも大きな支障が出ることは必至である。 4. なお,今回のテスト開発や上記3の分析結果等については,本年半ばに研究発表を行い,それを踏まえて,論文にまとめる予定である。
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