本年度は、昨年度の成果を承けて『上海博物館蔵戦国楚竹書』所収の[書籍類]を中心に検討を進めた。その結果、同書の第6分冊および第7分冊に収録された資料の中に以下のような2つの資料郡の存在が明らかとなった。 1. 同じ内容をもつ2種のテキストからなる資料群(Aグループと仮称) 2. 稚拙性を帯びた字体をもつ資料群(Bグループと仮称) ここで注目されるのは、BグループのなかにAグループの4種のうちの3種が含まれており、両グループの間に密接な関係が予想される点である。そこで筆者は両グループの特色を踏まえて、以下のような仮説を提起した。 Aグループに属する同じ内容をもった2種のテキストの存在は、教学の場における特殊な事例であり、その多くを含むBグループの特殊字体簡は、文字や書法に十分に習熟していない書き手による、習書的な性格をもったテキストである。 さらにこの仮説の検証作業の一環として、A・B両グループに属する『君人者何必安哉(甲・乙本)』を中心に検討を加え、『君人者何必安哉』甲乙両本は、共通の親本にもとづく兄弟の系譜関係にあり、文字や書法に十分習熟していない書き手による習字簡であることを明らかにした。 以上の研究成果は、台湾で開催された国際学会において報告するとともに、「上海博物館蔵戦国楚竹書の特異性-『君人者何必安哉(甲本・乙本)』を中心に-」と題する論文にまとめ、学術誌に発表した。さらに、昨年12月18日に大阪大学で開催された戦国楚簡研究会特別講演会における講演で報告し、武漢大学の徐少華教授をはじめとする国内外の研究者と意見交換をおこなった。
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