方中履撰『古今釈疑』第十七巻通称「切字釈疑」の第3節から第6節までを研究の対象とし、下記の成果を得た。 1.「切字釈疑」第3節「門法之非」の条を通読・分析し、「方中履『切字釈疑』「門法之非」の条を読む」を執筆・公表した。同稿の作成にあたっては、同条が引用する門法の文言を、『経史正音切韻指南』附載「玉鑰匙門法」十三門、明・正徳刊及び明・万暦刊『五音類聚四声篇』附刻「直指玉鑰匙門法」二十門、『新編篇韻貫珠集』所載の歌訣類等と照合し、「釈疑」の門法の源流を探ろうと試みた。また、方中履に先立ち門法の廃止を志した明の呂坤や呉元満の反切法について考察を行い、方中履自身の姿勢も明らかにした。ただし、同条の本文が長大なため、完備した訳注を作成・公表することはかなわなかった。 2.第4節「字母増減」の条を校合の上、和訳と注釈を作成、それに若干の考察を加えて、「方中履『切字釈疑』「字母増減」の条を読む(「切字釈疑」第4節訳注)」をまとめ、公表した。同稿の作成にあたって、方以智(中履の父)撰「切韻声原」の字母説を参照したほか、「釈疑」に先行する諸字母説の確認のために、元の呉澄、明の呂維祺・趙宦光・葉秉敬・呉元満・張位・李登、清の蕭雲従らの所説を調査した。また、方中履が提唱する音和反切の特徴を考察した。 3.上記作業の為に、2010年8月末から9月初めにかけて国立公文書館へ調査に赴いた。 4.第5節「真庚能備各母異状」の条を校合の上、和訳と注釈をほぼ完成させた。 5.第6節「啌〓上去入」本文の校合を行った。
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