本研究課題はドイツ語を対象に、非定形項や補文を取る述語の語彙意味論的な分析を目的としている。研究初年度であった2008年度は、ちょうど一般動詞がDOやCAUSEなどの下位述語に分解され、使役、反使役、脱使役など、さまざまな態で実現し得るように、意志や要求の動詞もVOL(意志)やOBL(義務)などの下位述語に分解され、同様の図式による態交替を示すことを立証すべく、データ収集を行い、一部については具体的な分析に着手した。 収集したデータは、この問題の解決の鍵を握ると思われるwollen「〜したい、〜して欲しい」やwunschen「願う」のような意志・願望の述語を用いた実例であり、これを補文の質(定形か非定形か、補文化詞があるかないか、目的語を有するか否か、など)や述語の文法範疇(テンス、ムード、など)によって検索できるようデータベース化し、次年度以降の本格的分析に備えた。 なお、定形の補文については、先行して分析を行った。その結果、wollenやwunschenなどの補文における接続法と補文化詞の有無との関係は、単なる形式的相補性として記述されるべきものではなく、文のムードに依拠している、すなわち、意味論的に動機づけられていることを発見し、この成果を学会において発表した。
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